言葉は子どもの未来を拓く力に
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外国籍児童・生徒と接する教育関係者のためのセミナー 第1回 開催報告
2025年5月31日(土)、NPO法人ともくら主催・JICA基金活用事業として、「外国籍児童・生徒と接する教育関係者のためのセミナー(全3回)」 第1回が開催されました。
初回のテーマは 「生活言語と学習言語」。
講師には 竹内 愛 氏(共愛学園前橋国際大学 教授) を迎え、教育現場で子どもたちと日々向き合う先生方や支援者の方々、100名を超える参加者が学びを深めました。
今、なぜ「ことばの支援」が重要なのか
冒頭、群馬県内の現状が紹介されました。
県内では外国ルーツの児童・生徒は急増しており、大泉町では 外国人人口比率21% にも達しています。外国ルーツの子どもたちは日本の教育制度・社会に適応しながら、多言語・多文化の間で暮らしています。
「ことば」は単なるコミュニケーション手段ではありません。
社会に参加し、学び、自己肯定感を育む鍵そのものです。しかし、現場では次のような課題が生じています。
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生活言語(日常会話)はある程度話せても、学習言語(教科学習に必要な言語)が追いつかない
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母語が軽視され、日本語だけを重視することで 「ダブルリミテッド(二言語とも未熟)」 状態に陥る
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学校現場の制度や支援体制が追いついていない
竹内先生は 「母語の力は第二言語(日本語)の発達を支える土台になる」 と力強く語られました。
母語を守り、育てることは アイデンティティ形成・思考力・学習力の発達 に不可欠です。
生活言語と学習言語:見えにくい壁を理解する
生活言語(BICS) は家庭や友人との会話など、比較的短期間(2〜3年)で習得されます。
一方、学習言語(CALP) は教科学習・論理的思考に必要な言語であり、5〜7年、場合によっては10年を要します。
「日常会話ができても、日本語で教科の内容が理解できているとは限らない」
これは学校現場でしばしば見落とされがちです。特に 高校受験 という節目では、学習言語力の差が進学率・学力格差に直結します。
講演では南米系の子どもの高校進学率が 30〜40% にとどまっている現状も共有されました。
「小学校段階からの早期言語支援が、子どもの将来の選択肢を広げる」
このメッセージに多くの参加者が深くうなずいていました。
母語支援の重要性と「ダブルリミテッド」問題
竹内先生は 「加算的バイリンガル教育」 の意義も解説しました。
これは「日本語だけを強化する」のではなく、母語と第二言語の両方を育てていく教育です。
母語がしっかりしている子は、日本語も学びやすく、深い思考ができるようになります。
逆に、母語を失い、日本語も中途半端なままだと、学力もアイデンティティも損なわれてしまう。
この状態が 「ダブルリミテッド」。
実際に現場では「家庭内で日本語ばかり使わせようとした結果、母語も日本語も中途半端になってしまった」という声が少なくありません。
講演では 氷山モデル も紹介され、表面的な言語力(話せる・聞ける)だけでなく、認知力や思考力といった「水面下の力」をどう育てるかが重要 だと強調されました。
海外事例に学ぶ:韓国・タイ・アメリカ
竹内先生の 韓国・タイ・アメリカでの教育現場の経験 も大変示唆的でした。
韓国では 国の政策レベルで多文化共生教育 を進めており、学校に多文化コーディネーターや専門支援者が常駐。
アメリカでも 母語を維持しつつ第二言語を習得する 体制が一般的。
一方、日本では 支援は個人の努力に依存 している現状があります。
「制度改革が急務である」
「教員の多忙さが支援体制の整備を阻んでいる」
という指摘には、参加者からも共感の声が多く挙がりました。
グループワークで共有された現場の課題
後半のグループワークでは、参加者同士で日々の悩みや工夫を共有しました。
挙がった課題例:
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日本語教室の時間が 学習言語習得には不十分
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母語を肯定的に捉える文化がまだ根づいていない
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ことばのヤングケアラー(家庭内通訳役) の子どもに支援が届いていない
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高校受験の情報が 家庭に伝わっていない
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先生たち自身が 孤立して悩んでいる
特に 「家庭と学校の連携」、「母語支援の視点」、「学習言語支援の長期的な計画性」 の必要性が全体で共有されました。
印象に残った言葉たち
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「言語は社会参加の鍵である」
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「母語を守ることが、学習力を育てることにつながる」
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「両方の言語が不十分だとアイデンティティ形成に影響が出る」
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「小学校段階から学習言語の支援を意識的に行うべき」
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「支援は一人の先生の努力に頼るものではなく、制度と地域の連携で支えるべき」
次回予告
第2回セミナー は、2025年8月2日(土) に開催予定です。
テーマは 「文化的背景と社会ルール」
講師は 山田 文乃 氏(NPO法人IKUNO・多文化ふらっと)。
「文化の違いから生じる誤解や摩擦」「学校と家庭の間のコミュニケーションギャップ」など、より実践的なテーマに取り組みます。
ぜひ引き続きご参加ください。
さいごに
ともくら では、今後も教育現場での実践に役立つ学びと交流の場を提供してまいります。
「すべての子どもが学べる環境づくり」のために、多文化共生教育 をともに考えていきましょう。