文化的背景と社会ルール

2025年8月2日(土)、NPO法人ともくら主催・JICA基金活用事業として、「外国籍児童・生徒と接する教育関係者のためのセミナー(全3回)」 第2回が開催されました。

 

 

今回のテーマは 「文化的背景と社会ルール」。
講師には 山田 文乃 氏(NPO法人IKUNO・多文化ふらっと) を迎え、教育現場で子どもたちと日々向き合う先生方や支援者の方々、約50人の参加者が学びを深めました。

セミナー報告:「文化的背景と学校のルール」

本セミナーでは、多様な文化的背景を持つ子どもたち、とりわけ外国にルーツを持つ子どもたちが、日本の学校生活で直面する課題について考えました。講師の山田先生は、参加者が「明確な答え」を持ち帰るのではなく、「課題意識(モヤモヤ)」を持ち帰ることを目的とした対話型の講義を行いました。

 

 

 

 

1. 「平等」と「公平」の違い

「平等(Equality)」と「公平(Equity)」の違いを示す有名なイラストを用いて、外国にルーツを持つ子どもたちの状況を考えるワークショップから始まりました。

• 子どもの身長差:言葉、文化、経済力、家庭環境など、子どもたちが持つ変えられない背景の違いを象徴しています。
• 野球を見る行為:学校での学習参加、授業理解、将来の夢を描くことなど、学校生活における様々な活動に例えられます。
• 足元の箱:学習に参加するための支援策、合理的配慮、教材の工夫(ふりがな等)、法や制度などを指します。
• 壁:言語や文化の壁、マジョリティ(多数派)社会との違いや暗黙のルールなどが障壁となっていることを表します

2. 外国にルーツを持つ子どもたちの現状

日本に在住する外国人の数はコロナ禍を経て急増しており、それに伴い外国籍の子どもの数も増加の一途をたどっています。日本語指導が必要な児童生徒も約7万人に迫り、その中には外国で育ったために日本語指導が必要な日本国籍の子どもも含まれています。国は、日本語教育だけでなく、子どもたちのキャリア教育や母語・母文化の学習支援も推進しています。

3. ステレオタイプへの気づき

「写真から国を当てるクイズ」を通じ、人が物事を判断する際の枠組み(スキーマ)が、無意識のうちにステレオタイプや偏見につながる危険性を学びました。特に情報が少ない対象では、固定観念に基づいた誤解が生じやすいことが示されました。

 

 

 

4. ケーススタディ:遠足のお弁当

具体的な事例として、来日したばかりの子どもが初めて遠足に参加する場面が提示されました。保護者にお弁当について伝える際、どのような対応が望ましいかが問われました。

• 望ましくない対応:日本式のお弁当の作り方を教えたり、写真を見せて同様のものを用意するよう促したりすること。これは親切に見えても、無意識に日本文化への同化を求める行為(郷に入っては郷に従え)であり、相手の文化を尊重していません。

• 望ましい対応:「母国では遠足のような時にどんな昼食を持っていきますか?」と尋ね、それを持たせてもらうようにお願いすること。これが相手の背景を尊重した対応であると説明されました。 「他の子と違うお弁当だと、いじめられるかもしれない」という懸念に対しては、それは「違いを認められないマジョリティ集団(学校文化)の問題」であり、その問題をマイノリティである子どもの側に転嫁すべきではないと指摘されました。

 

 

 

 

5. まとめとメッセージ

講師は「本当に困っているのはマイノリティの子どもではなく、多様性に直面する学校や教職員側なのではないか」と問いかけました。
南アフリカの人形売り場や下着広告の事例を紹介し、日常的に多様性に触れることの大切さを強調。教育現場にいる大人こそ、自らのステレオタイプや無意識の偏見を自覚し、一人ひとりをそのまま受け止めるロールモデルとなる必要があると結論づけられました。

 

 

 

 

 

参加者からの声

”尊重と同化の違い”
相手を尊重しているつもりでも、無意識に同化を求めてしまうことがあると気づかされました。

”多文化共生の実際”
共生は一言で言えるほど簡単ではなく、相手と対話を重ねながら折り合いを探す過程そのものだと感じました。

”ステレオタイプの危うさ”
「助けたい」という思いが、知らず知らず同化や適応の強要につながる可能性があると学びました。

”体験からの理解”
ロールプレイを通じて、少数派の立場にある子どもの気持ちを実感できました。

参加者は、このセミナーを通じて多文化共生について考えながら、冒頭の目的である、明確な答えではなく課題意識(モヤモヤ)を持ち帰る経験となりました。

 

 

 

次回予告
第3回セミナー は、2025年10月18日(土) に開催予定です。
テーマは 「異文化適応力の向上」
講師は 西舘 崇 氏(共愛学園前橋国際大学教授)。
支援者自身の異文化適応力を育てる、日常の支援に生かせる内容を扱います。
ぜひ引き続きご参加ください。

 

 

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